深夜1時のキックオフ。「前半だけ見て寝よう」と自分に言い聞かせてソファに座った数時間後、私は明け方の部屋でひとり、声を殺して叫んでいました。FIFAワールドカップ2026・ラウンド16、アルゼンチン対エジプト。0-2からの大逆転劇を、リアルタイムで目撃してしまった夜の記録です。

結論から書きます。アルゼンチンが3-2で勝ちました。しかも2点ビハインドの後半79分からの3ゴールで、です。スコアだけ見れば「逆転勝ち」の4文字ですが、あの深夜の絶望と歓喜のジェットコースターは、スコアでは1ミリも伝わりません。だからこの記事を書いています。

キックオフ前:深夜1時の静かな緊張

今大会のラウンド16、アルゼンチン対エジプトのキックオフは日本時間7月8日(水)深夜1時。会場はアメリカ・アトランタのスタジアムです。地上波での放送はなく、私はABEMAの配信で観戦しました。

翌日も仕事があるのに、なぜ観てしまうのか。答えは簡単で、カードが良すぎたからです。前回王者アルゼンチンには、もちろんメッシがいる。対するエジプトは組織的な堅い守備が武器。「王者が順当に勝つのか、番狂わせが起きるのか」——この構図だけで、眠気と戦う理由には十分でした。

部屋の電気を少し落として、麦茶を用意して、スマホの通知を切る。深夜のW杯観戦には、独特の儀式めいた静けさがあります。世界中が沸いている試合を、日本の深夜の部屋でひとり見つめる、あの感じ。ワールドカップの夏にしか味わえない時間です。

前半:15分の失点と、メッシのPK失敗

試合は立ち上がりから、嫌な予感のする展開でした。前半15分、エジプトのヤセル・イブラヒムが先制ゴール。スタジアムの空気が変わるのが、画面越しにも分かりました。

それでも「王者はここから巻き返すはず」と思って見ていた前半、さらに事件が起きます。アルゼンチンがPKを獲得。キッカーはもちろんメッシ。「はい同点」と誰もが思ったその瞬間——まさかのPK失敗。しかも今大会2度目です。

深夜2時前、0-1のまま前半終了。正直に白状すると、私はここで一度「寝るかどうか」を真剣に考えました。エジプトの守備ブロックは崩れる気配がなく、アルゼンチンの攻撃はどこか重い。「これは番狂わせの日かもしれない」という空気が、画面の向こうにもこちら側にも漂っていました。

スポーツ観戦の面白さは、「結末を知らない時間」を過ごせること。あの時点で寝なかった自分を、今は褒めたい。

後半:絶望の2失点目、そして「王者の15分間」

後半も流れは変わりません。そして67分、悪夢が現実になります。エジプトのモスタファ・ジーコが追加点。0-2。時計は深夜3時前。SNSを開けば「王者散る」「メッシ最後のW杯が終わる」の文字が並び始めていました。

ここからです。この試合が「ただの番狂わせ候補」から「今大会屈指の名勝負」に変わったのは。

79分、クリスティアン・ロメロ。まず1点を返します。センターバックのゴールで、スコアは1-2。この時点ではまだ「反撃及ばず、で終わるパターンでは」と半信半疑でした。何度もこういう試合を見てきましたから。

83分、リオネル・メッシ。左足を振り抜いた瞬間、時間が止まりました。2-2。前半にPKを外した39歳が、いちばん重い場面で試合を振り出しに戻す。物語が過剰すぎて、深夜の頭では処理が追いつきませんでした。気づいたら立ち上がっていました。

そして終了間際、エンソ・フェルナンデスのヘディングが突き刺さります。3-2。逆転。明け方の部屋で、私は隣人に配慮した最小音量の絶叫という高度な技術を披露することになりました。

この試合を一言で: 79分から終了間際までの約15分間に3ゴール。絶望的な時間帯から試合をひっくり返す集中力こそ、「前回王者」の看板の中身なのだと思い知らされました。

試合経過まとめ

時間出来事スコア
前半15分ヤセル・イブラヒムのゴールでエジプト先制0-1
前半メッシ、今大会2度目のPK失敗0-1
後半67分モスタファ・ジーコが追加点0-2
後半79分クリスティアン・ロメロが1点を返す1-2
後半83分メッシが左足で同点ゴール2-2
終了間際エンソ・フェルナンデスが決勝ヘッド3-2

この結果、アルゼンチンはベスト8進出。エジプトは敗れはしたものの、王者をあと一歩まで追い詰めた堅守と2ゴールは、間違いなく今大会の記憶に残るパフォーマンスでした。

観終わって考えたこと

明け方、興奮で眠れないままぼんやり考えていたのは、メッシのことでした。

PKを外した直後のスター選手には、二種類の未来があります。ミスに飲み込まれて消えるか、それを上書きするプレーをするか。この日のメッシは後者でした。失敗を帳消しにするのではなく、失敗ごと物語の一部にしてしまう。長くトップに立ち続ける人の共通点を、深夜のサッカー中継から教わった気がします。

そしてもうひとつ。0-2になった時点で観るのをやめていたら、私はこの試合を「アルゼンチンが苦戦した試合」として記憶していたはずです。結末を知らない時間に耐えて最後まで見届けた人だけが、あの15分間を「体験」として持ち帰れる。リアルタイム観戦の価値は、結局そこに尽きるのだと思います。

寝不足の頭で書いたこの記事も、数年後に読み返せば「あの夜」に戻れるタイムカプセルになるはず。ワールドカップの夏は、まだ続きます。次の深夜観戦に備えて、今日は早めに寝ます。

まとめ

FIFAワールドカップ2026ラウンド16、アルゼンチン対エジプトは、0-2からの大逆転でアルゼンチンが3-2の勝利。前半のPK失敗から一転、83分に同点弾を沈めたメッシと、終了間際に決めたエンソ・フェルナンデスの働きで、王者がベスト8に駒を進めました。深夜1時からの観戦は翌日に響きましたが、後悔は1ミリもありません。こういう夜のために、スポーツを観ているのだから。